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- 2024/11/16
YAMAHA / HPH-PROシリーズ
イヤーカップの音叉マークが目を引くYAMAHAのヘッドフォンHPH-PROシリーズ。一昨年、リスニング用ヘッドフォン市場に約30年振りに復帰を果たした同社が満を持して送り出した自信作だ。この注目のヘッドフォン、HPH-PROの魅力を、多くのレコーディングやライブ・サポートで活躍する実力派ミュージシャン高田漣さんのインプレッションと、このヘッドフォンを世に送り出したYAMAHA開発陣のインタビューを交えてお届けしよう。
未来的な一体型のデザインが印象的なYAMAHAの本格的リスニング用ヘッドフ
70年代にはマリオ・ペリーニ・デザイン(HP-1)、 80年代
いまの音楽シーンは誤解を恐れずに言えばテクノポップやEDMといったビートが効いたサウンドが主流である。ヘッドフォンの音作りも重低音をいかに再生できるかを重視したものが多く、もっとナチュラルに楽器の持つ音を楽しみたいというユーザーの選択肢はあまりないように思える。また最近ではアナログ盤をPCにデジタル録音してライブラリー化したり、DSDやハイレゾといった高音質な音源の普及で、アナログの持つ質感や楽器やプレイヤーの持つ空気感をしっかりと再現できるヘッドフォンの登場が待ち望まれていた。そこへ満を持して送り出されたのがHPH-PROである。オーディオメーカーでもあり楽器メーカーでもあるYAMAHAだからできる「楽器の音をしっかりと聞かせる」サウンドチューニングは打ち込みの中に埋もれそうになるギターの響きを際立たせ、小編成のバンドであれば、プレイヤーの立ち位置やタッチの雰囲気までをも伝えてくれる。HPH-PROはリスニングを主としたヘッドフォンであるが「楽器の音をしっかり聞かせる」音作りはプレイヤーのニュアンスの研究や、自宅録音の際のモニター用ヘッドフォンとしても、きっと役立つに違いない。アナログ盤を楽しんだり、楽器をプレイする人であれば欠かせない相棒になるはずだ。
YMO、細野晴臣、高橋幸宏、斉藤和義、くるり、星野源らのレコーディングやライヴ・サポートで活躍する実力派ミュージシャン高田漣さんに、今話題のYAMAHAのヘッドフォンHPH-PROシリーズを実際に体験していただき、音楽制作の現場やリスニングなどでチェック、プロ・ミュージシャンとして、いち音楽リスナーとして感想を聞いた。
──YAMAHAのHPH-PROの第一印象は?
高田 まず色がかわいいし、ルックスがすごくいいなって。ヘッドフォンって地味な印象があったのですが、HPH-PROは違いましたね。あとこのYAMAHAの音叉マークがすごくいい(笑)!
──装着感はいかがでしたか?
高田 締め付けられることもなく自然にフィットしました。装着にストレスがないので、すぐにいろいろな音楽を聴き始められましたね。僕はヘアースタイルのせいもあるんですけど、なかなかフィットするポイントに装着できないことが多いんです。でもHPH-PROはすぐにベストなポジションに装着できたし、ズレが少ない。楽な感じがすごく気持ちいいですよね。
──音の印象はどうでしょう?
高田 どのモデルも個性があるなと思いました。共通して言えるのは、ひとつひとつの音がちゃんと聴こえるということ。ホール&オーツの『She's Gone』を聴いていて、以前は気にならなかったローズ・ピアノの音が「このあたりの鍵盤強めに弾いていて少し歪んでいるなとか、このあたりはマイルドだな」というタッチの差がわかるようになったんです。ここまで聞こえちゃうのかって。テレビがはじめてデジタル放送になった時のような驚きを感じました。もうひとつは定位がはっきりと感じられること。チェック用にサイモン&ガーファンクルの『オールド・フレンズ』を聴いたのですが、オーケストラが入っている曲でも「ここに第一バイオリンがいるな、ここにチェロがあるな」というように各楽器の位置関係をはっきり感じとれたんです。
──普段使っているイヤモニとは聴こえ方は違いますか?
高田 違いますね。今聞いている空気感も含めて感じるというか、スピーカーを前にしているような印象を受けました。特に最上位機種のPRO500は解像度が高くていいですね。解像度が高過ぎて、昔の音源ではヒスノイズが気になってしまうくらいです。PRO400になると、もう少しキュッと締まった音の印象になりますね。
──ちなみに自宅のスタジオのモニター・スピーカーは何を使っていますか?
高田 定番のスタジオ・モニター、NS-10Mです。
──NS-10MもYAMAHA製品ですが、HPH-PROと比べて音の印象はどうでしょう?
高田 確かにYAMAHAの音だと感じるところはありますね。ただHPH-PROは単純なフラットではなくて、良い意味でクセがない。音源の解像度にもよりますけど、ローからハイまでバランス良く鳴っている感じがします。PRO500に関しては本当にクオリティが高い。ヘタするとスピーカーで聞くよりモニターの環境としてはいいんじゃないかって。
──実際にHPH-PROを音源制作で使用したとのことですが、いかがでしたか?
高田 とにかく使いやすかった。ここしばらくはイヤモニばかりで作業をしていたので、本格的なヘッドフォンを使ったのは久しぶりでした。イヤモニでは仕上げの段階で、はじめて音の定位を考えていましたが、HPH-PROを使うと録りの段階から音の定位が気になりはじめるんです。正直、クリックをどこに置くかでさえかなり悩みましたからね。
──(HPH-PROを使うことで)録音作業がよりクリエイティブになりましたか?
高田 間違いなくそうですね。やはり日本の住宅環境だとスピーカーでモニターをしていると言っても、それほど良い環境ではないですよ。いくら自宅でベストな音を作り込んでスタジオに持って行っても実際にはローが出過ぎていたりして、あれ?って思うことが多いんです。HPH-PROを使うとヘッドフォンの中がスタジオのような印象になるので作業しやすいですね。
──最近はDSDやハイレゾといった高音質フォーマットもありますが、HPH-PROとの相性はどう思われます?
高田 いいと思います。制作する側がいくらクオリティの高い音を提供できても最終的に届くのはユーザーの耳じゃないですか? ヘッドフォンはそこがダイレクトにつながるから重要です。HPH-PROは間違いなくハイレゾのような高音質なフォーマットにもしっかり応えてくれると思うし、むしろMP3でもある程度クリアに聴かせてくれるんじゃないかな。今聴いている音楽をワンランク引き上げてくれるヘッドフォンだと思います。今回は時間がなくてハイファイなものを中心に聴きましたけど、これでアナログ盤をしっかりチェックしたらきっと面白いでしょうね。
──ハイレゾなどの高音質なフォーマットが登場することで、ヘッドフォンなど最終的に耳に届く製品に求められるレベルも上がってきますよね。
高田 本当にそう。言ってみれば(ヘッドフォンって)アンプですからね。どんなに直前までハイファイに作り込んでも最後の出口がしっかりしていないと意味がない。今回、HPH-PROを使ってみて僕、ちょっと反省しました(笑)。
──HPH-PROのようなヘッドフォンとの出会いで音楽に対する接し方や制作の仕方が変わりそうですね。
高田 10代で音楽業界に入った頃はテープがやっとA-DATに変わったくらいの時期で、それからPCが音楽制作のベースになってあまりの変化に衝撃を受けました。その時に音の聴き方や録り方、音楽性も変化していかないといけないと痛感しました。今回、HPH-PROを使って、当時と同じくらいの衝撃がありましたね。ハイファイ的なものに慣れていたつもりだったけど、録りの部分で音質を気にしているのに、最終的な耳に届く部分までは、まだまだ意識が足りなかったなって。
──なるほど。
高田 昔の音楽はきっとある程度マスキングされていたんでしょうね。映画などを観ていても感じますが、デジタルリマスターされた作品は俳優さんのお化粧の具合が気になったりするんです。音も同じですね。かなりリマスターされている音源でも、HPH-PROで聴くとフェーダーを上げた時のノイズの乗り方などが気になってしまいます。今制作している作品の録音の時も、打ち込みのドラムと生のギターのような作品の場合、ギターがスコーンと抜けたあと、打ち込みのドラムだけになった時の音質感の違いが気になってしまって、あえて無音の部屋の音を録って合わせることで違和感をなくしたんです。
──HPH-PROのそれぞれのモデルを高田さんなら、どう使いますか?
高田 PRO500はかなり定位感がハッキリした聴こえ方なのでクラシックのように、できるだけひとつの部屋で鳴っていて広がりがある音楽を聴くと楽しめる気がします。PRO400はいい意味でアナログな感じがしました。もちろん聴こえ方はハイファイだけどギュっと締まっているので、ハイファイ過ぎない音楽の方が楽しめますね。あえて昔のソウルなどを聴いたら面白いんじゃないかな。実は自分が一番欲しいと思ったのはPRO300です。コンパクトだし持ち運びしやすいじゃないですか。制作などを抜きにして、このサイズでこれだけのクオリティの音がするなら、ツアーや旅先などで使うにはもってこいです。デザインもシンプルでシチュエーションを選ばないので女の子が持っていてもかわいいですよね。
──高田さんにとってHPH-PROはどんなヘッドフォンと言えるでしょうか?
高田 バランスが良くて聴きやすいヘッドフォン。フィット感や音量感も良くて、耳にやさしいから長時間でも聴けるんです。これまでの僕が知っているものは音質が良くても重くて、聴いていて疲れてしまうものが多かったんです。HPH-PROはリスニングにも音楽制作にも使える振り幅の広さがある。共通して言えるのは、どのモデルもアコースティックな響きというか楽器みたいな印象を受けました。楽器プレイヤーこそヘッドフォンにこだわるべきですね、改心します!
ヘッドフォンブームの中、数ある製品の中でオリジナリティ溢れるデザインとナチュラル・サウンドで個性を放つYAMAHAのHPH-PROシリーズ。楽器やスピーカーのメーカーとして知られる同社が満を持して送り出した戦略モデルの誕生の背景とこだわりについて、開発に携わった方々に話をうかがった。
──新たにPRO400も加わり、より充実したラインナップとなったHPH-PROシリーズですが、どのような経緯でこのモデルは誕生したのでしょうか?
林 背景として、スマートフォンやポータブル・オーディオ市場の拡大があります。その流れの中でYAHAMAとして、もう一度本格的にリスニング用のヘッドフォンを始めようということになったんです。
──HPH-PROはどんなコンセプトで開発されたのでしょうか?
林 もともとYAMAHAの製品はスピーカーをはじめとして、ナチュラル・サウンドがテーマになっています。HPH-PROはそういったサウンドの基本の部分はしっかり守りながら、今の市場に対して新しいアプローチをかけていこうと考えました。
足立 私たちはヘッドフォンとしては後発のメーカーですから、数あるヘッドフォンの中からYAMAHAとしてのアイデンティティを強調しなければならなかったんです。そこを軸にデザインや音を詰めていきました。
──サウンド面についてお聞きします。先ほど“ナチュラル・サウンド”という言葉が出ましたが、YAMAHAのスピーカー製品からの影響はありましたか?
林 YAMAHAの(スピーカー)サウンドは広帯域でフラットな音が特徴なんです。世の中はドンシャリな音が流行っていますが、ヘッドフォンに関してもスピーカーと同じように基本として常にフラットな音を意識しています。ただHPH-PROに関しては、多くのリスナーに楽しんでもらえるようにフラットながらも、あえて適度に持ち上げている帯域もあります。極端に持ち上げてしまうと、中域の良い部分が消えてしまうので、無理せずにできるだけ広帯域でいろんな音が聴こえるようにチューニングしました。重低音好きには物足りないかもしれませんが、楽器の音をしっかりと聴きたい方ならHPH-PROは気に入ってもらえると思います。
──楽器の音がしっかりと聴こえる、それはYAMAHAが楽器メーカーでもあることが大きいですか?
林 はい。社風として楽器の音がちゃんと聴こえないヘッドフォンは商品じゃないという考えなんです。私たちがナチュラル・サウンドを強く押し出すのはそのせいかもしれません。楽器の音がきちんと楽器の音として聴こえる。その基本があった上での、プラスアルファの味付けです。
──では、どのようにサウンドを詰めていったのでしょうか?
林 アーティストの演奏を聴いて鳥肌が立った感覚、あの感じが出せるように狙っています。まるでライブハウスで聴いているような臨場感を出したかったんです。そのためにライブハウスで実際に観たアーティストの音源をヘッドフォンの音決めのソースに使ったりもしました。ギターの余韻などもかなり再現できていると思います。
──300、400、500、それぞれの音の違いを教えてください。
林 300はポータビリティに重点を置いて、外に持ち出して使ってもらうことを前提に考えています。若い人たちをターゲットにしているので、クリアで力強いサウンドを求めたチューニングにしています。500はサイズも大きめですし、家でじっくり聴いてもらうことを前提にシビアに広帯域でいろいろな音がきちんと聴けるヘッドフォンを目指しています。400は500より軽めにチューニングをしていて、音の立ち上がりやスピードを重視していますね。
──ハウジングの素材の違いなども音にも影響を与えていますか?
林 やはりアルミのハウジングを持つ500は音の中にずっしり感もあり、金属的な響きもあるので、金管楽器などを聴くと、より楽器の鳴りに近づいてきます。それに重い方が音の分離が良くなりますね。
──デザイン面ではどうでしょう?
林 デザイン面はかなり力を入れました。ファッショナブルなヘッドフォンが多く出まわっていますし、その中で存在感を出すにはデザイン面での差別化が必要だと考えました。まずは目立たないことには手にも取ってもらえないですからね。
──確かにHPH-PROはヘッドバンドからイヤーカップまで一体感のある特徴的なデザインですね。
林 HPH-PROは球体をイメージしているんです。ヘッドバンド部が曲面になっているものは多いですが、イヤーカップ部まで曲面なデザインにしているものは、なかなかないと思います。実はこのデザインは、アイディアの段階からほぼ変更なしで製品になっているんです。それだけ印象が強かったんでしょうね。
──イヤーカップの音叉マークも印象的です。
林 今回、あえてHPH-PROに音叉マークを単独で使うことで“YAMAHAの製品なんだよ”というアピールもできたと思っています。
──カラーリングも他にない独特なものがありますね。
林 HPH-PROの共通のカラーであるエボニーブラックはYAMAHAのピアノで使われている独特の深みがある色です。またレーシングブルーや、今回、新たに加わったアドバンスレッドもYAMAHAのバイクのカラーをイメージしているんですよ、そういった部分は他社とは違う個性ですね。
中澤 300と400に採用しているアイボリーホワイトも独特な白を使っているので好評をいただいています。
林 従来、ホワイトというとクールな雰囲気のものが多いのですが、HPH-PROのホワイトはもっとウォームというか柔らかいんです。500よりも軽いので女性にもお薦めです。
中澤 実際、女性に好評ですが、意外にも男性にもアイボリーホワイトは評判がいいんですよ。
──HPH-PROは海外でも販売されているそうですが、評判は?
足立 YAMAHAの独自性やユニークな面がよく出ていると好評です。HPH-PROは一部のYAMAHAのバイク店にも置いていて、楽器ファンだけでなくYAMAHAブランドのファンの方にも多く買っていただいています。誰にでも受けるという製品ではないのですが、ある特定のユーザーに対して尖ったものを提供したいというコンセプトの狙い通り、非常に熱心なファンがついています。
──なるほど。話は変わりますが、デジマートのユーザーのように楽器やDTMを楽しんでいる人には、YAMAHAというとモニター・スピーカーのベストセラーNS-10Mの印象が強いと思いますが、HPH-PROはそういったユーザーにはどうでしょう?
中澤 間違いないと思います。実際に楽器店でも取り扱っていて、楽器の音がしっかり出ているヘッドフォンとしてDTMユーザーの方にも好評だと聞いています。PRO500は30~40代の男性に、PRO300は特に20代の女性に人気がありますね。
林 HPH-PROをはじめ、YAMAHAの製品はNS-10Mのようなモニター・ライクなものが多いんです。ヘッドフォンをやっていく中で、リスニング用には聴いていて楽しくなるエッセンスを盛り込んでいきますが、基本として楽器の音をちゃんと楽器の音として聴こえるようにするには、モニター・ライクな面は必要不可欠ですからね。HPH-PROは、もちろん楽器やDTMのユーザーにも楽しんで使ってもらえると思います。特に生の楽器が使われている音楽を聴くと、よりHPH-PROの良さがわかりますよ。
──最後になりますが、HPH-PROを通して伝えたいことは?
足立 ヘッドフォンを通してYAMAHAのイメージを伝えていきたいです。他社の流れに迎合するのではなく独自性を持つブランドとして、またサウンド面では流行りのドンシャリではなく、ナチュラル・サウンドの音作りでYAMAHAらしさを訴求していきたいです。
YAMAHAが数あるヘッドフォン・ブランドと一線を画しているの
価格:オープン
価格:オープン
価格:オープン
高田漣
1973年、日本を代表するフォークシンガー・高田渡の長男として生まれる。少年時代はサッカーに熱中し、14歳からギターを始める。17歳で、父親の旧友でもあるシンガーソングライター・西岡恭蔵のアルバムでセッション・デビューを果たす。スティール・ギターをはじめとするマルチ弦楽器奏者として、YMO、細野晴臣、高橋幸宏、斉藤和義、くるり、星野源、等のレコーディングやライヴで活躍中。ソロ・アーティストとしても今までに5枚のアルバムをリリース。2007年、ヱビス<ザ・ホップ>、プリングルズのTVCMに出演。同年夏、高橋幸宏の新バンド構想の呼びかけにより、原田知世、高野寛、高田漣、堀江博久、権藤知彦の計6人で「pupa」結成。現在公開中の映画「横道世之介」(原作:吉田修一、主演:高良健吾・吉高由里子、監督・脚本:沖田修一)、6月3日公開の「箱入り息子の恋」(監督・脚本:市井昌秀、主演:星野源・夏帆)、4月から5月にかけて東京・大阪・名古屋・北九州の4都市で開催されるシティボーイズの新作公演〜シティボーイズミックス PRESENTS『西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を』の音楽を担当。6/19には豪華ゲスト陣が参加した約6年ぶりの新作アルバム「アンサンブル」をリリース。また、アコースティック・ギター・マガジンとの共同イベント、Acoustic Ensembleも定期的に開催する。