新進気鋭の純国産ブランドによるアーチトップ・ギターがデビュー!
Violet Moon
[アーチトップ・ギター編]
Version-S / Version-R 試奏インプレッション
試奏&文:井戸沼 尚也 撮影:伊藤 大輔
知る人ぞ知る国産ニュー・ブランドViolet Moonから2本のアーチトップ・ギターが登場した。いずれもセミアコともフルアコともとれる独特な構造をもち、そのサウンドは他の一般的なアーチトップ・ギターとは一線を画す。サウンドのみならず取り回しの良さやハウリング防止といったプレイヤー目線の観点でも優れているという。今回は試奏動画とインプレッションで音色を、写真と解説によって内部構造まで徹底的に迫る。
今回紹介するのは、スプルース・トップを採用したVERSION-Sとオール・ローズウッドのVERSION-Rの2機種。最大の特徴は、いずれもフロント・ピックアップの下にはマホガニー、リア・ピックアップの下にはメイプルといった違う材質のブロックが取り付けてあること。ある意味セミアコ的なその発想はハウリング防止と同時に本機の持ち味であるフロントとリアの音の明確な違いを生み出している。ピックアップはどちらもベア・ナックル“The Mule”を2基マウントし、クリーン〜歪みまでパワフルに鳴る。
Violet Moon / Version-S
スプルース・トップを採用した生鳴り豊かな“セミフルアコ”
本器を手にすると、驚くほど軽い。ボディ厚が薄いことと(44mm)、その独特の構造のせいか(基本的にはフルアコ構造だが、ピックアップの下に、サウンドの調整とハウリング防止を兼ねて、ブロック/完全にボディをふさいではいないものが入っている)、非常に軽量なのだ。Violet Moonではこれを“セミフルアコ”と呼んでいる。
試奏では、まずは完全にクリーンの音で各ピックアップのサウンドをチェック。フロント・ピックアップは上品なまろやかさを持ち、フラットワウンドの弦を張れば、心地よいフルアコ・サウンドを楽しめそう。ただし、一般的なフルアコとの違いは、サスティーンの良さ。通常、フルアコはコツッというアタックの後にスッとサスティーンが消える。しかし、本器はアタックの後にスーーッという感じで音が伸びる。この特徴を活かせば、ストレートなジャズ以外の音楽にも対応できそうだ。
次に、リアピックアップ。まろやかなフロントから、一転、アタッキーだ。フルアコ系のギターのリアは、抜けきらず太くもない、使い難いものが少なくない。本器のリアは、良質なレスポールのリアから少しローを削り、エア感を足したような独特のサウンドだ。実は、フロント下とリア下のブロックの材質を音質に合わせて変えているようで、それがフロントとリアのキャラクターの違いにつながっているようだ。
エフェクターはコンプ、オーバードライブを加えてみたが、特にコンプとの相性は抜群だ。オーバードライブは、一般のフルアコよりは十分ハウリングに強いが、センターブロックがびっしり詰まったセミアコに比べれば注意が必要だろう。高音弦がセミアコ寄り、低音弦がフルアコ寄りのイメージで、全体の鳴りはセミアコとフルアコの中間。そして、リアとフロントの個性が際立つ。面白い楽器が現れた。
Violet Moon / Version-R
“セミフルアコ”構造+ローズ・トップ!より明るいサウンドが特徴
本器を見て感動したのが、ローズ・トップの美しさ。ボディの曲線や塗装の艶と相まって、実に美しい。こちらも“セミフルアコ”構造で非常に軽く、ボディ・サイズが一般的な335タイプより少し小ぶりな15.7インチのため、非常に抱えやすい。
サウンドチェックでは、先ほどの機種と比較して、やはりローズ・トップとスプルース・トップの違いが出たように思う。こちらの方が、より高域が明瞭で明るい印象。Version-S同様に“セミフルアコ”構造を採用しており、エア感たっぷり。見た目はセミアコ的だが、低音弦のアタックや低音域の削れ方等はフルアコの感覚に近く、かなり新鮮だ。
こちらもピックアップ下のブロックを、リアとフロントで変えているせいか、サウンド・キャラクターが大きく違う。リアはより固く、フロントはより甘くという狙いのようだ。リアの場合、アンプの設定次第で、突き刺さるような高域まで出る。しかし、低音弦側は、ソリッド系やセミアコ系に比べて少しアタックの遅い、フルアコ的な音の出方。サスティーンは、フルアコ系よりはるかに長く、小ぶりなボディや微妙に短いスケールと相まって、実に弾きやすい。
本器も、エフェクター乗りは良好。特にコンプをかけてカッティングをすると、シングルコイル系では出せない太さと、適度なシャープさを持ったご機嫌なサウンドとなった。軽い歪みとの相性もよい。ハウリング対策は施されているが、ハイゲインには対応し難いので注意が必要だ。ジャズ、ブルース、フュージョン、歌モノのバック等、深い歪みを必要とする音楽でなければ、幅広いジャンルで活躍しそうなギターである。例えば、「335タイプよりもっとアコースティック感が欲しい、でもカジノ・タイプではサスティーンが足りない」と悩んでいる人には、オススメだ。
【Violet Moonのヒミツ】
独特なサウンドを生み出す特殊なボディ構造
まず、全体にはフルアコ構造であることが見て取れる。よく見ると、ピックアップ・キャビティの辺りが分厚いブロックで作られており、フロントは濃い茶色(マホガニー)、リアの辺りは肌色に近い茶色(メイプル)だとわかる。これがセミアコにも近いサウンドを演出し、“セミフルアコ”と呼ばれる所以だ。また、トップ部分の補強材にも空洞がいくつも空けられ、よりエア感を強調したい狙いが見てとれる。
こちらも見ての通り、全体の作りはフルアコ構造。しかし、各ピックアップ下にはフロント/マホガニー、リア/メイプルの補強ブロックが貼られており、サウンド・キャラクターの明確化とハウリング防止の狙いが見える。トップ部分の補強には、空洞なし。Version-Sと比較すると、多少ソリッド~セミアコ系に近い鳴りを目指したものと思われる。ダブルカッタウェイの見た目に即したキャラクター設定だ。
Violet Moon・ブランドコンセプト
成熟期に入った日本の楽器市場。日本の“エレキ”の歴史が始まった1960年代から現在に至るまで、多くのギター・キッズが夢を持って、たくさんのエレキ・ギターを手にしてきた。
しかし、彼らが成長し、上達し、ギター・ブランドの持つ特徴やクオリティを十分に理解した結果、満足感を得た人もいれば、“何かが足りない”と感じるようになった人もいるだろう。Violet Moonは、後者のためのギター、ベースだ。“今までのものとは異なる特徴を持つギターが欲しい”──そう願う全ての人へ、新しい価値を届ける。それがViolet Moonのコンセプトだ。
Violet Moon の公式ラインナップは現在、アーチトップ・ギターが2機種と、フェンダー・タイプのベースが2機種。一見、オーソドックスなラインナップだが、アーチトップ・タイプのギターはボディ内部に独自の“セミフルアコ”といえる構造を採用したり、ベースには“33インチ”というロングとミディアムの中間的なこだわりのスケールを採用したりと、ぱっと見てもわからないような部分まで考え抜いて制作されている。今後も、一見スタンダードな楽器を装いながら、思いもよらない機能や構造を持つ斬新なギター、ベースが発表される可能性が高い。Violet Moonが楽器市場に吹き込む新しい風に要注目だ。
■Violet Moon製品に関する詳しい情報は、ヒビキコーポレーションのHP(http://www.hibikimusic.co.jp/)をチェック!
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