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今剛がナッグス・ギターズを試奏レポート・Vol.2/ナッグス・ギターズ工房レポート
かつてPRSプライベート・ストック・チームを牽引したジョー・ナッグスを中心とするKnaggs Guitars。2009年創立とまだ年若いブランドだが、その卓越したデザイン・センスとフィーリング豊かなサウンドに魅せられたギタリストは、すでに数多くいることだろう。同ブランドの魅力に迫る特集記事の第2回は、前回に引き続き日本のトップ・ギタリスト=今剛の試奏チェック、そして現地取材によるファクトリー・レポートの2本立てでお届けしていこう。
連載第1回はこちら:『今剛がナッグス・ギターズを試奏チェック・Vol.1/ナッグス・ギターズとは?』
連載第3回はこちら:『今剛がナッグス・ギターズを試奏チェック・Vol.3/スペック・チェック&スタッフ・インタビュー』
Products & Guitarist's Review 〜製品レビュー&今剛試奏レポート
今回のレビューは、ブリッジとテイルピースが一体化したオリジナル・パーツを採用しているInfluence Seriesの代表機種、Kenai、Keyaを紹介していこう。第1回と同様、今剛による試奏レポートも大いに参考にしてもらいたい。
Influence Series: Kenai Tier 2
ナッグス・ギターズの二本柱として、チェサピーク・シリーズと対をなすのがこのインフルエンス・シリーズ。アラスカの地名から名前を取られたケナイは、そのシングル・カッタウェイ・モデルだ。インフルエンス・シリーズの大きな特徴は、チェサピーク・シリーズより若干短い24.75インチ・スケール(通称ギブソン・スケール)を採用していることで、ボディ構造もレス・ポールにならい、マホガニー・バック&メイプル・トップという組み合わせになっている。そのバック材は8/4インチ(約5.08cm)と厚めだが、バックにコンターが加えられているうえ凹型の湾曲も付けられているので、思いのほか軽く、フィット感も良好。それらを踏まえてトップ材との比率を考えている、ナッグスならではの技と言えるだろう。ネック・グリップは、ビンテージ・ギターを元にした“59”タイプで、厚みのあるシェイプ。ピックアップもオリジナルP.A.F.を再現したセイモア・ダンカンのセス・ラヴァー・モデルSH-55n/SH-55bを搭載し、古き良き時代のエレクトリック・ギターの構造を敬する姿勢がうかがえる。シリーズ名にもなっているオリジナル・ブリッジの採用は革新性の発露で、チューンOマティック・ブリッジとテイルピースを一体化させたこのブリッジにより、豊かな倍音とサステインを実現しているのが、単なるビンテージ指向モデルと大きく異なる点だ。
Influence Series: Keya Tier 2
インフルエンス・シリーズのもう1本、北米を流れる河から名前を取られたケヤは、ダブル・カッタウェイということもありジョー・ナッグスたちの古巣PRSを思わせるモデルだ。スケールとボディ構造はケナイと同じく、24.75インチで、マホガニー・バック&メイプル・トップ。ただ本器のバック厚は6/4インチ(約3.81cm)となっており、ケナイと比較してメイプルが主張する、タイトできらびやかなトーン設計と言えるだろう。また、見た目とフィット感双方に関わる、ボディ・トップの深いアーチと断面で立ち上がる美しいエッジ処理にも注目したい。ネック・グリップはナット部が約4.2cmの“85”タイプで、ケナイより薄くスリムなシェイプを採用。24フレットということもあり、より現代的なプレイ・スタイルを念頭に置いたモデルと言えるだろう。ピックアップは、ケナイと同じくTier2ということでセイモア・ダンカンのセス・ラヴァー・モデルSH-55n/SH-55bだが、本器は1ボリューム&1トーンというコントロールになっており、PRSと同じくヘヴィロック・ギタリストにも好まれそうなスタイルだ。ブリッジは、シリーズ名通りチューンOマティック・ブリッジとテイルピースが一体化したオリジナル・モデルを採用。倍音とサステインをロスなく再現するためのこだわりだが、すべてのモデルでセットネック・ジョイントを採用しているのと同じく、同社の哲学を体現しているポイントだ。
【総評】シングル・カッタウェイならではのボディやネックの鳴りが好きなのかな。
今:ケナイは2ボリューム、2トーンでまさにレス・ポールだけど、これはいいね! パッと見からするとすごくオーソドックスなはずなのに、弾き心地はすごくモダンな印象です。軽いのもうれしいし、このウェーバリー・タイプのオープン・バック・ペグも良い感じですよ。個人的にはケヤよりもしっくりきたけど、シングル・カッタウェイならではのボディやネックの鳴りが好きなのかな。音はすごくスムーズで、このブリッジならではの響きがあるのかもしれない。コイル・タップがあると欲しい音が全部出るっていう感じなんだけど、シャープさもあるし十分と言えば十分かな。今のところVol.1のチョップタンクに続くお気に入りです(笑)。
ケヤは随分軽いんだね。でも生音の状態でもすごく振動が伝わってくる。ギブソン・スケールなので確かにフレット間は狭めだし、弦間も少し狭く感じるけど、弾きやすくてそんなこと気にならないです。指板もフラットでグリップも細めだから握りやすいんだよね。こういうタイプのギターは使ったことないんだけど、ハイ・ポジションも弾きやすいし良いギターだと思います。個人的にリクエストするなら、ケナイと同じでやっぱりコイル・タップができたらいいかな。パワーは申し分なしだけど、もう一音色欲しい時もあるからね。
チェサピーク・シリーズとは全然違う印象で見方がずいぶん変わったけど、弾きやすいっていうのは変わりないね。
Profile
今剛(こん・つよし)
1958年、北海道出身。日本を代表するスタジオ・ミュージシャン。寺尾聰の「ルビーの指環」から宇多田ヒカルの「Automatic」まで、ヒット曲にこの人ありと言われるほど、数多くのアーティストのレコーディング、ライブに参加。現在は、同郷で中学の後輩であるkoがボーカルを務めるBattle Cry及びclass with Battle Cryのギタリストとしても活動している。
なお、今回の試奏では、フラクタル・オーディオ・システムのAxe-Fx IIプリアンプ、Amcronのパワー・アンプPSA-2、メサ・ブギーのスピーカー・キャビネットで組まれたサウンド・システムを使用した。
◎Battle Cry Sound
Welcome to Knaggs Guitars Factory 〜ナッグス・ギターズ工房レポート
Knaggs Guitarsは、美しい自然と古い建造物が多く残るオールド・タウン、メリーランド州グリーンズボロにて製作されている。現在、工房として使用している赤レンガの建物は1912年に建築されたもので、かつてベーブ・ルースが活躍した時代にはグローブ工場として機能していたそうだ。多くの窓から自然光が差し込み、ギター製作にはこれ以上ないほどの気持ち良い環境が整っている。ジョー・ナッグスは、工房を支える梁や桁が今では手に入らない巨木のイエローパイン材で骨組みされている点をとても気に入っているそうで、その言葉からも木材への愛情はギターだけにとどまらないことがうかがえる。古き良き時代のエレクトリック・ギターに敬意を払いながらも、独自のデザインと唯一無二のサウンドをあわせ持つKnaggs Guitarsはいかにして製作されているのか?さっそく工房の全貌に迫ってみよう。
Wood Section:〜木材の保管/CNCマシン
大量生産ではなく工房規模で運営されるギター・ブランドならではの厳選された木材がストックされている。メイプルはおもに硬質で音響特性の優れたイースタン・メイプル材をストック、ネック材のメイプルはすべて強固なクォーター・ソン材が備蓄されていた。
Influenceシリーズの指板に使用されるローズウッドには、直線パターンの木目と色合いからイースト・インディアン・ローズウッドがセレクトされ、Chesapeakシリーズで使用されるココボロ材も多くストックされていた。ココボロ材はブラジリアン・ローズウッドによく似た音響特性と、赤みを帯びた美しい杢目、経年変化の色味変化が味わい深い高級指板材である。“良いギターは良い木材から生まれる”とするジョー・ナッグスの厳しい目利きとこだわりが詰まっている。ピックガード用のウェンジ材、Severnに使用されるサペリ材、アコースティック・ギター用のレッド・スプルース材、スペックにはないスポルテッド・メイプル材なども保管されていた。すべての材はストック棚右に設置されたホットボックスに入れ、含水率が6%になるまで乾燥させる。環境によってはさらに乾燥させてから製造に移すとのこと。
ラフカットされたボディはCNCマシンにより1本ずつ成形される。Severnのトップだけでも約40分かけて丁寧にカットされていた。成形されたボディにサンディングを施すルーカス・フロンツォリは、元PRSで木工加工、ネック組み立て、フィニッシュ・サンディングなどを担当していた経歴を持つ人物だ。作業をいったん止めてにこやかに取材に応じてくれた。流れ作業に追われるような工場ではない、工房ならではの居心地と雰囲気が気持ちいい。
Neck Section〜ネック形成
元PRSの木工部門マネージャーで、Knaggs Guitarsにおいてはネック成形と組み込み、彫り〜磨き、塗装までも手がけ、家具修復の専門家としても活躍する工房のキーマン、ディーン・ニッチ。彼による細かいネック成形風景はまさに圧巻の連続だった。Severnのネックヒール部分、およびヘッド裏アングル部分は、ノミやヤスリを使った熟練のハンド・カービングで形成されていく。Knaggs Guitars独特のネック・フィーリングと美しい造形は、この“手工”が生む賜物と言える。ハンド・カービングの匠として名高いジョー・ナッグス自身も隣で同様の仕事をしており、どれも熟練職人の魂が宿った贅沢なネックと言える。プレイヤーとギターをつなぐネック成形には、並々ならぬこだわりが見て取れる。
ネック材は、すべて柾目で木採られた贅沢なカーリー・メイプルを採用している。強固なネックは弦振動に干渉せず、弦振動の多くをボディに伝えることで、驚くべき自然なロング・サステインを生み出している。ダブル・アクションのトラスロッドは真っ直ぐに仕込まれ、マホガニーのスプラインでキャップされる。ネックとして形を整えたあとも、さらに3日間以上の十分な自然乾燥を施してから指板を接着させることで、狂いのないネック製作を目指している。
Finish Section〜塗装
PRS同様、アニリンダイ(染料)によるハンド・ステイン塗装が施されている。手で生地に塗装を塗り込んでいくことで、独特のカラーと際立つ杢を演出できるのだ。手のかかる着色方法であるが、生地を生かした独特の風合いはこの作業を経て初めて生まれる。マホガニーはラッカーベースのフィラー(充填剤)により目止めされる。全体にベースコートが吹きつけられたあと、320番のヤスリで平面を出したのち、ラッカーを重ねて吹いていく。渇いたところをさらに600番の紙ヤスリで磨き、さらにトップ・ラッカーコートを重ねていく。その後水拭きとバフで最終的な艶を生み出し、アッセンブリー・セクションに回される。
Assembly Section〜組み込み/セットアップ
アッセンブリーと最終セットアップを担当するのは、その道で30年にも及ぶキャリアを持つジョン・イングラム。PRSにてプライベート・ストック及びArtistといったモデルのほとんどを組み上げてきたセットアップのスペシャリストである。ジョーが全幅の信頼を寄せる人物で、手作業によるナット・ハンドカットを含む最終セットアップは、すべて彼の手に委ねられている。本人はいたって陽気な性格で、現場の空気を和らげていた。
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