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L.R.Baggsの最新ピックアップ5機種を有田純弘&小倉良男が徹底インプレッション&試奏動画でレポート!
アコースティック・サウンドの神髄を、科学的分析力に裏打ちされたアプローチによりさらなる高みへと押し上げたL.R.Baggsピックアップ。生ギターの音を活かしきるためのテクノロジーの集約は、いつしか業界標準として認識されるにとどまらず、常に新たな可能性への指針として厳しいニーズの中で磨かれながら進化を繰り返している。その最先端とも言うべき新世代5機種のタイプ別ピックアップの実力を、稀代の弦楽器奏者である有田純弘氏と、アコースティックを知り尽くすギター・テクニシャン界の重鎮・小倉良男氏が徹底解剖!
L.R.Baggsとは?
米国カリフォルニア州ニポモに工房を構える、アコースティック・ギター用ピックアップの一大メーカー。サウンド、機構の両面でプロフェッショナルなニーズに完全対応する高品質を支えるのは、『生楽器の音をいかに忠実に再現するか』という統一された製品コンセプトだ。
その探究は、凄腕のルシアーでもあった代表のLloyd Baggs氏の理念そのものに、アコースティック・サウンドを知り尽くしているからこその深い見識が生んだ、大胆かつ科学的アプローチによる機能デザインに集約される。現在ではピックアップ以外にも、ハイエンドな機能を持つ高品位プリアンプ等もラインナップし、アコースティック・ギター環境におけるハイエンドな総合イクイップメント・ブランドとしてますます世界で認知度を高めている。
試奏の環境、条件について
サウンド・チェックに用いられたのは、全く同じコンディションに整えられた、各ピックアップ装着済みのマーティンD-28 × 4本とマーティン・2 Tenor Uke × 1本。録音ソースはコンデンサー・マイク(外部マイク)と、ピックアップ経由のラインの同時収録を実施。『ライン』には、ペダルD.I.による簡易イコライジング&リバーブを、原音に影響がない程度に軽くかませてある。
有田氏には、ヘッドフォンで正確な『ライン』音とモニター・アンプの音の両方を確認していただいた後、収録に臨んでもらっている。動画にはそれぞれ、生音(『外部マイク』)とピックアップ(『ライン』)を同じプレイで再生し、比較し易いように構成したので、その音の違い(or類似)をはっきりと感じ取る事ができるはずだ。
奏法も、フラットピッキング、フィンガーピッキング等、多彩なプレイに精通している有田氏ならではのバリエーション豊かな表現力を駆使し、ピックアップの特性がより際立つメロディ・ラインをチョイスしていただいた。アコースティック・サウンドの揺るぎなき豊潤な音質に応えた、現行ピックアップの最右翼が提示するスタイル別マテリアル……その極上のセンスを堪能して欲しい。
有田純弘&小倉良男がL.R.Baggs 5機種をサウンド・チェック!
マイク録りのリアルさを徹底的に追求したTru-Mic搭載モデル
LYRIC
ピエゾを全く必要としない、最新イン・ギター“Tru-Mic(トゥルーマイク)”による革新的ソリューション。バウンダリー・マイクの応用により構築される自然な「空気感」は、今までに無いリアルなライン・サウンドと、表現力を増した繊細なタッチを呼び覚ます。アコースティック・マイク・システムの根幹を覆す、今、最も新しい『ピックアップ・マイク』だ。
限りなくマイクに近いサウンドで驚きました
有田's Impressions:
「アコースティック・ギターの美味しいところが、気持ち良く出ていますね。ピックアップの存在感がほとんど気にならないし、ピックアップによくある、弦ごとの音量レベルにも神経質にならなくて済む…本当にマイクに向かうような気持ちで演奏できます。また、洗練というか、地ならしされた様なまとまりがあって、ピックアップに馴れた世代の僕にとって、マイクの音だけど、ピックアップの様な使い方ができます。つまり「軽く弾ける」。……軽く弾いてなおかつ抜けの良い音が作れるんです。普通のスタンド・マイクだと、アクセントを付ける音は、正味強く弾かないとマイクに載らない。又、強いピッキングにレベル合わせてしまうと、小さい音は「音の壁の後ろ側」に隠れちゃう。でも、LYRICならその心配が無いんですよ。プレイヤーにとって新しい表現力の扉が開きそうですね。」
プロの現場でも選択肢の一つになり得るクオリティだと思います
小倉's Impressions:
「ボディの中にマイクを仕込むとボコボコした、いわゆる「中の音」がするんですが、LYRICだと、中で録りながらも外で録っているかのような音がしますね。「エア感」を得るためだけに音質をあきらつつも中にマイクを入れるケースがあるんですが、その必要がなくなるっていうのは助かりますね。マイクで録るのが絶対に良いってのは誰もが知ってはいても、現場の都合で使えない場合も多いですから。そういう時に重宝すると思います。ハウリングにも相当強いっていう印象を受けました。ソロや弾き語り、小編成のアコースティック・バンドのモニターには最適だと思います。あと、宅録にも向いていそうですね。家でマイク録りの環境を整えることは意外と難しく、いくら良いマイクを使っても音響がちゃんとしてない部屋では上手く録れないですからね。そういう時に、アコギの音だけはラインで録ったりする時もあるので、LYRICはそういう時にも充分使えるんじゃないかなって思いますよ。」
立ち上がりの早さはそのままに、成熟の域を迎えたアンダーサドル・ピエゾ・ピックアップ
ELEMENT-VTC
フィードバックに強く、立ち上がりの早いレスポンスで定評のあるアンダーサドル型ピエゾの代表機種。ピッキング時のピークを抑制するビルトイン・コンプをデフォルトで装備した、スムーズかつピュアな出音が特徴。さらにVTC(Volume Tone Control)による音像コントロールによりステージでの機動力を高めた、現代的アコースティック・サウンド構築のためのスタンダード・ピックアップ。
生の演奏にさらなる表現力を加えてくれるものと考えて使いたい
有田's Impressions:
「弾く時に気持ちのよいコンプレッション感があるというか、弦に触れてすぐに鳴る過敏さがなく、弦が弾かれるまで一瞬溜めてくれるんですね。その「溜め」のコントロールが効くというのが凄く良いと思います。巻き弦からプレーン弦まで、バランス良く音色が均一化されて低音がとても良く出るので、積極的な音作りができそうですね。生音だけの場合、聴き取れないようなデリケートな領域も確実に拾うピエゾならではの表現力で、より大きなスケールを感じさせることができます。反応が良く、ダイレクトな鳴りのフィーリングです。エア・マイクだと空気を介して聴こえるまで若干のタイムラグがありますが、ELEMENTは反応が速いから、例えば人工ハーモニクスとかもホントに撫でるだけで発音してくれます。モニターが確実にできるってことでプレイヤーはリラックスできますよね。生の演奏にさらなる表現力を加えてくれるものって考えて使いたいですね。」
モニター・ツールにプラスαな使い方ができると思います
小倉's Impressions:
「ピエゾの音なんですが、進化してきているって感じました。元々ピエゾはそうなんですが、これも、リバーブとかイコライザーとかで調理しながら自分の世界を作り上げるためのツールとして、きちんと成立していると思います。70年代のように、コンサートホールが大きくなっていって、ひたすら大きい音があれば良いって時代ではなくなって……昔とはピエゾの意味合いが変化してきているんだと思います。もちろん今でも楽器の数が多いアンサンブルをやる時には、アコースティック・ギターをモニターするのは大変なことですから、そういう時に一番助かる道具には違いないと思います。ただエレクトリックギター、アコースティッックギターだけじゃなくて、その中間みたいなサウンドも作品として出てくる時代になってきましたからね。この音なら、大音量時の優れたモニターというとらえ方だけではなく、もっと新しい使い方が増えるんじゃないかなって思わせられました。」
Tru-MicとElementが200Hzで交差する、画期的なデュアル・ピックアップ・システム
ANTHEM
今までのピエゾ+マイクのシステムはあくまでピエゾが主体で、マイクはそれにエア感を加えるためだけに機能するものだった。しかし“ANTHEM”はフィードバックに強くパンチのある音質のピエゾ・ピックアップ“Element”と、絶妙な生音の空気感を再現できる“Tru-Micがそれぞれ単独で成立する良質なサウンドを持っており、従来のものと比べ次元が違うシステムとなっている。まさにL.R.Baggsのフラッグシップ・モデルと言えるだろう。さらに200Hz〜250Hz以下のベーシックをピエゾが押さえる事でハウリングを抑制し、さらに、ナチュラルな音質を支える中高域のマイク・ミックスを任意にコントロール可能。高度な汎用性が魅力の最先端デュアル・マイク・システムだ。
ナーバスにならず、はっきりとニュアンスを出せるピックアップですね
有田's Impressions:
「プレイヤーの視点から言うと、「ギターよりもまずプレイヤーの感性を大切にしてくれるピックアップ」ですね。演奏中のプレイヤーというのは実のところ、今ドレッドノートのギターを弾いてるとか、サイド&バックがマホガニーだとかローズだとか、トーンはどうのとか……弾いてる時はそういう事を考えたくないものなんです。欲しいのは、その時に、自分の感性がそのままダイレクトに出て、本当に音楽と演奏に集中させてくれる楽器や道具なんですね。そして、このピックアップは、「聴こえない音」がちゃんとそこに存在するのがわかる、というのが素晴らしいと感じました。「スキマ」の音って言うのかな……はっきり聴こえなくても良いけど、そこに「居て欲しい」音、出しゃばって主張しないけど、確かに“鳴っている”という存在感を表現したいときに、ピエゾだけだと白黒はっきり付き過ぎてしまうけど、トゥルーマイクをミックスできる事で、「さり気なさ」のニュアンスが出せるという意味があると思います。編成の大きさやジャンルは問わず、振り幅の広い演奏で使える音だと思いますね。」
オールインワンで達成できているってだけでも凄い事だと思います
小倉's Impressions:
「ピエゾとマイクをミックスするのは元々L.R.Baggsがやってたスタイルですから、歴史がありますよね。“ANTHEM”は、どのミックス状態でもピエゾがゼロにならないのが賢いと思いました。“Element”がずっと下で出ていて、かつトゥルーマイクの低域をカットしているから、マイクのレベルを上げてもハウるリスクが少ないんですね。だから音の調整がシンプルで済みます。ピエゾとマイクの両方の良い所を出そうと思うと、本来は外部マイクを立ててピエゾと混ぜるって方法をとらなきゃいけないんですが、凄く大規模なシステムになってしまいますよね。それをオールインワンで達成できているってだけでも凄い事だと思いますよ。」
上下左右に動く下部コイルでボディ鳴りをとらえ、よりアコースティック感を高めたマグネティック・ピックアップ
M80
約10年前、そのナチュラルかつ存在感のあるサウンドで全世界の注目を浴びたL.R.Baggs謹製ピックアップのベストセラー“M1”。それを数々の新機構に照らし、アコースティックに特化したクオリティにこだわり抜いた筐体がこの“M80”だ。アコースティック・ギターの場合、マグネティック・ピックアップの特性で極端に音量の大きくなってしまう2弦には、あえてポールピースを設置していないのが非常に秀逸(付属品としてポールピースはアリ)。シリーズを通じて、取り付け条件を選ばぬ適応性の高さに加え、新たな表現力を身につけた“M80”こそ、進化系マグネティック・ピックアップの革新と言えるだろう。
フィンガーピッキングにぴったりな、空間の広がりがありますね
有田's Impressions:
「反応が「柔らかい」ですね。フィンガーピッキングの優しいプレイを良く表現してくれると思います。生音とはレスポンスが違って、ソフトっていうか、良い意味でのフィルターがかかってくるんです。イン・ブリッジ・ピエゾが現実のスケールよりも大きなパワーを感じさせてくれるように、マグネットは広がりを……ポイントの音圧じゃなくて、空間の広がりというか、立体感というか、そいういうものを感じさせてくれますね。拾っている倍音のエリアが違うから、表現したいアタックのニュアンスも違ってきますしね。僕はどちらかというと(フラット・ピック派で)タイトな音が好きだから、これはファースト・チョイスじゃないんだけれど、繊細なフィンガーピッカーがマグネットを好む理由はそういうところにあるんだな、と解ります。ピックを使うプレイヤーは、このアタックの違いを理解した上で弾くと良いのでしょうね。」
ライブハウスとか、条件の整わない場所で本領を発揮すると思います
小倉's Impressions:
「“M1”よりも、音はずっと生音っぽいですね。M80の良い所は他にもあります。まず、改造によって生じる、生音の変化を避けられるメリットは大きいですよ。例えば、ギブソンJ-45とかのアジャスタブル・ブリッジのギターをピックアップするのに、ブリッジを大改造する大変さを考えれば、マグネットが最良の選択肢ですよね。わずかな穴でも開けられない国宝級のギターとかもそうです。さらに、これが本当に役に立つのは、「条件が整わない現場」で使う時なんです。例えば、CDのインストアライブを店頭でやる時なんかに、(ラインを)PAに渡しても簡単にはまともな音にはならないものです。そんな時にパッと出して繋いで「ある水準以上の音」で弾ける……それができるかできないかは、プロの現場では凄く大きな違いになります。あと、エンジニアの立場から言わせてもらえば、マグネットはピエゾに比べてEQがなだらかで扱い易い面もありますよ。」
定評あるElementをウクレレ用にカスタマイズした、小型軽量ピックアップ
FIVE-O
実績のある“Element”アンダー・サドル・ピエゾをサイズ・ダウンした、L.R.Baggs初のウクレレ専用ピックアップ“FIVE-O”。音色を犠牲にしない同社のノウハウを活かしたカスタマイズにより、徹底した小型軽量化を実現。ライト・インストゥルメントの可能性を一気に押し広げる、サウンド・イクイップメントの革命児。
ものすごく自然で、生音と完全に同じ音ではない、微妙な差も良かった
有田's Impressions:
「全部ナイロン弦だからかな?いわゆる「ピエゾ臭い」部分があまりなくて、ものすごく自然でした。全部の帯域が聴こえますし、ピックアップ装着による重さも感じない。素晴らしいと思いますよ。ギターほど面積が無いから元々ハウリングには強いのだと思いますが、パーカッションとかのアンサンブルでもこれは安心ですね。また、僕にとっては生音と完全に同じ音では良いピックアップではないのですが、その微妙な差もちょうど良かった。僕は生音と完全に同じではないところに、ピックアップを使う意味を前向きにとらえていて、生音だけでは表現できない音がピックアップで拾えるなら、むしろそこが活かしどころだと思うんですよ。例えば、左手のフィンガリングのノイズをいかに出さなくするか、とかね。ピエゾがあればそういうテクニックも反映できる領域があるという事です。このピックアップにはそれがちゃんと備わっていましたよ。」
軽量さとこれだけ音質も反応も良いピエゾはとても現代的です
小倉's Impressions:
「この軽さは凄いですね。ピックアップよりも、むしろケーブルの重さが気になるくらいです。それに音もちゃんとしていますね。エンジニアの僕からするとピエゾの音はここまで良くなっても、やっぱり本質はマイクで補えない所の音をいかに拾えるかって所が重要です。ソロの時でも、ある程度の大きさの会場になると、マイクで拾った音をPAから返してもらっても、自分が今弾いている音とディレイ(時間差)が出てしまって、非常に演奏しにくいものなんです。だから、そんな時こそピックアップが必要になってくるんです。質、量ともにね。昔は(音)量だけでした。(音)質を求めても、なかなか出てきてくれななかったんですが……それを思うと、これだけ音質も反応も良いピエゾはとても現代的ですよね。」
総評:試奏を終えて
TPOで選べるラインナップ、バリエーションの豊富さは素晴らしい
──本日試した中で、個人的なフェイバリットはどれでしたか?
有田:僕は間違いなく“LYRIC”でしたね。本当に、生音と遜色無いニュアンスで出力できるっていう、素晴らしい選択肢が得られましたから。
小倉:ええ、ソロや弾き語り、小編成のアコースティック・バンドのモニターには最適でしょうね。ハウリングにも相当強いと思いますが、さすがに大きな現場でドラムが横でガンガン鳴ってたりすると、やっぱりそれは拾ってしまう(ハウる)と思います。そういうことを理解した上で使って欲しいですね。
有田:そこがTPOなんですよね。僕は、生音を聴かせたいビンテージの楽器でソロ演奏するとか、アコースティックな編成での演奏において、硬いピエゾ的な要素が出ないように演出をする場合に“LYRIC”を使いたいですね。ピックアップの選択というのも、表現したいニュアンスによってマホガニーのギターを使うとか、ドレッドノートを使うとか……そういうのと同じ事ですよ。
小倉:うん。そして、それを選べるラインナップがL.R.Baggsにはあるってことが何より凄いと思います。シチュエーションで選べるんですよね。選ぶ側としても、「何を付けたら良いですか?」って相談されて、その人がどういう音楽やスタイルを持っているかによって、選択肢が変わってきますからね。
有田:特にL.R.Baggsの場合はバリエーションが豊富で、新しいモデルが出ても、古いものも廃盤にならずに残ってますからね。
小倉:TPOって言えるのも、こういうメーカーあってこそですね。未だに“M1”もニーズがありますから。音質でもラインナップでも個体のバリエーションでも、常にハイレベルを追求しつつ多くの選択肢を維持しているって、本当に凄い事だと思いますよ。
良い音を最小限のセッティングで得られるメリットは大きい
──全体的な音や使い勝手はいかがでしたか?
有田:今日弾いた個体は、全部バランスがとれていて、弦ごとのボリューム・レベルのバラツキが無かったです。それは素晴らしかった。JESインターナショナルさんで取り付けたのも大きかったのかな。僕からアドバイスするなら……例えば一口にマーティンD-28といっても、ナット高とか、弦高とか、ネックの反りとがでプレイアビリティが全く変わってきます。ピックアップっていうのは、楽器とのフィッティングがシビアなものですから、プロショップや買ったお店に相談したりして、楽器の状態もしっかり調整してもらいつつきちんと取り付けてもらって、パフォーマンスを100%発揮できるようにした方が絶対に良いってことです。
小倉:使う側も、ちょっと勉強する必要があると思います。ピックアップの構造上の事とか。ぜひ興味持って欲しいですね。それって、ギターを弾くテクニックとか、ギター演奏の仕組みとリンクする所がありますからね。弦を弾く強さとか、アタックの変化……それと同じ事がピックアップで起こっていて、L.R.Baggsが研究してるのはそういうことなんですよね。クラシック・ギタリストがピッキングを研究するのと同じような事をラボでやってるわけでしょ。
有田:そうですね。そしてさらに勉強することで、自分の機材をシンプルにする事ができるんですよ。実はね、以前はライブで凄い量の機材を使っていたんです。コンデンサー・マイクと、ブレンダーを使って、イコライザーも使って……もう、搬入してセッティングするだけで引っ越しだったんですよ(笑)。ドラマーより早く現場に入って、ドラマーより片付けが遅くて……アコギなのに(笑)。エレキ主体の音量のあるバンドの中でアコースティック楽器を弾く、という厳しい状況では、まず聴こえるというのが大前提。そして自然な音で自分の音をモニターしたかった。それだけがんばっても、現場で音を出したらハウリングしたり.…鍛えられました(笑)。昔は僕もアコギの音作りも技術的に知らない事も多かったけど、同時にまたピックアップそのものの選択肢も少なかった。今はそのピックアップの研究が進んで、楽器や演奏スタイルによりフィットしたピックアップ・システムを選べる。自分と相性の良いピックアップが見つかれば、機材も縮小できて、結果ますます良い音を出せる……それは、僕だけでなく、すべてのプレイヤーにとって、演奏に集中できる意味で何よりも素晴らしい事なんです。
Profile
有田純弘(ありた・よしひろ)
数多の弦楽器を弾きこなす、日本を代表するマルチ・アコースティック奏者にして求道者。その魔法のように精密な指先を爪弾けば、光沢の雫がこぼれ落ちるがごとく流麗かつ豊潤なサウンドが命を宿し、迸る。全米ナショナル・ブルーグラス・バンジョー・チャンピオンシップ優勝者。
また、その豊富な経験をもとにギター選びの極意を満載した『ギターを上手に売り買いするために読んでおきたい本』を弊社より上梓。小倉氏のインタビューもあり、必読の1冊となっている。
◎有田純弘オフィシャル・ウェブサイト
◎近著:『ギターを上手に売り買いするために読んでおきたい本』
Profile
小倉良男(おぐら・よしお)
国内屈指のサウンド・エンジニアにしてステージ・テクニシャン。特にアコースティック楽器に深く精通し、今も数々の現場を渡り歩く「機材の哲人」。稀代一流のトップ・ミュージシャン達からの信頼も厚く、その深い見識と経験からくるアドバイスを求め、リピート・オーダーは引きも切らない。
試奏・収録で使用した機材
ギター/Martin D-28
各ピックアップを装着し、弦高等のコンディションが整えられた良好な状態のD-28を4本、マーティンのテナーウクレレ、2 Tenor Ukeを1本使用した。(楽器提供:池部楽器店ハートマンギターズ)
コンデンサー・マイク/AKG C414 XLS
名機“C414B ULS”直系のフラットかつ緻密な音質を持つ、現行コンデンサー・マイクの不動の定番。原音に忠実であるとともに、室内のアンビエントも深く再現し、全帯域にわたってクリアで安定した収音が可能。ギター正面から約1m、地上約1mの場所から収録。
モニター/AAD by Phil Jones Cub-II
老舗ベース・アンプ・メーカーとしても名高いPhil Jonesの、小型プロ仕様のアコースティック・ギター専用アンプ。透き通ったピュア・サウンドはまさにアコースティック楽器のモニタリングに最適。収録では、MONO x 2で奏者の左右に配置し、ピックアップの拾うフィードバック干渉量の計測や、ヘッドフォンとの間の音質補正などに使用された。
プリアンプD.I./L.R.Baggs Venue D.I.
アコースティック・サウンドに大敵ともいえる不要なクリップ・ノイズを回避するため、オーディオ・パスにディスクリート・クラスA回路を採用した高級ペダル・プリアンプ。収録では有田氏の足下に置かれ、ラインD.Iとして使用。イコライジングはピックアップの特性を生かすため最小限。
リバーブ/tc electronic Hall of Fame
全世界のスタジオで標準とされるTCリバーブ・クオリティ。その音質を余す事なく集約したストンプ・リバーブ“Hall of Fame”。透き通るように透明なアンビエント空間の演出に長け、精密なリフレクション深度や減衰のニュアンスまで直感的に操作可能。有田氏所有の個体で、“Venue D.I.”のセンド/リターンに入れて使用した。
製品情報・関連記事
◎各製品情報・問い合わせ先:L.R.Baggs / JESインターナショナル