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Knaggs Guitars特集 〜熟練ルシアーたちの新たな挑戦〜

ジョー・ナッグス&スタッフ・インタビュー

Builder Interview 〜ジョー・ナッグス インタビュー

 最後に、PRSでプライベート・ストック・チームを率いた経験を持つジョー・ナッグスに、Knaggs Guitarsの立ち上げの経緯、ブランド理念などを尋ねた。

基本コンセプト

ジョー・ナッグス/生産部門責任者

 Knaggs Guitarsが誇るユニークなサウンドやフィーリングを持った最高のクオリティーのギターを作ることにあります。“フェンダー・ストラトキャスターやギブソン・レス・ポールとは違う、ましてやポール・リード・スミスのサウンドとも違うギターじゃないか!”と言われることもあります。しかし、必ずしもそれらのギターと似たサウンドを持っている必要はありません。あくまでKnaggs Guitarsらしいサウンドにしたいと 思っており、私たちはそれだけを追求しています。そして素晴らしい人々とともに良い時間を過ごしながらやっていきたいと思っています。

ブランド立ち上げの経緯

 2009年の8月、私たちはKnaggs Guitarsを立ち上げました。私はPRSで何年もギターの設計を行なってきたうえで、開発チームを率い、会社在籍時にはプライベートストック・チームも統率しました。その頃から、Choptank、Severnといったいくつかのギターの設計を、個人的に行なっていたのです。これらのギターは、PRSで設計したモデルよりも私自身のテイストに近く、自分の好みを反映させたギターたちでした。実は、これらのモデルをChesapeakeという名前でPRSに導入しようと考えましたが、社長のポールは通常のPRSの生産ラインに集中することを考えていたため実現には至らなかったのです。しかし、私が設計したギターを世界中のギタリストに手に取ってもらいたいと考えました。その結果、自分の会社を立ち上げて運営することになったのです。

現在のスタッフ

 ダニー・ディド、デイヴ・ヘイゼル、そして私の3人はオリジナルのプライベートストック・チーム出身です。ダニー・ディドと私は20年も仕事をともに行い、HollowbodyやMiraといったモデルを作ってきました。ダニーと私はプロトタイプを作り、それを生産していくためのプロセスを担当してきました。プライベートストック、Artistモデル、手作業によるカービング、カスタムCNC装置による作業もすべて行なっていましたね。3Dモデリングのプログラミングとなるとダニーは本当に魔法使いのように卓越した存在で、優れたギタークラフトマンだけではなく類を見ないプログラマーなのです! デイヴ・ヘイゼルは私の右腕のような存在で、プライベートストック・チームでの私のスケジュールやギター製作のペースの管理も任せていました。ジョン・イングラムはギターのセットアップを35年間に渡って行なってきましたっが、プライベートストックやArtistといったモデルのほとんどすべてを、彼が組み上げてきたのです。ジョンは芸術レベルですべてをマスターした存在ですね。ほかのスタッフもみんなPRSでかつて仕事をしたことがあり、類まれなる才能豊かなギター製作者ばかりです。

年間の生産本数

 現在のところ、我々の工房では毎年約400本近く製作しています。ギター製作にはチーム全体が関与しており、特定の分野は専門のスタッフに担当させています。例えばディーン・ニッチとルーカス・フロンゾーリは木材工房での作業を行ない、ニック・ラルフとスティーヴ・ボムガードナーはフィニッシュの工程を担当しています。彼らは、必要であれば両者の作業を線引きすることなく往来する形をとることもありますね。私も必要あればすべての異なる分野での作業を行なっていますよ。それから、ネック、ボディ、ラジアスを付けた指板など、木材の大まかな裁断作業はCNCルーターを使います。フレットの打ち込みやネックのシェイピング、ボディのヤスリがけ、塗装といった作業はすべて手作業になります。

影響を受けたギター・ビルダー

 PRSはもちろん私にインパクトを与え、実際に彼の下で仕事をすることで多くを学んできました。ダキスト、マーティン、フェンダー、ギブソン、ボブ・ベネデット、コリングス、テイラー、トム・アンダーソンといったメーカーからも私は学んできました。とにかく、ギターの製作で大切なプロセスはたくさんあります。もしルシアーを志す学生の前で私が講義をする機会があれば、かなり長々しくて深みのあるものになることでしょう。木材の乾燥、樹木を伐採する時期、各掘削作業の段階でどの程度削り落とすのか、塗装の仕方、どの程度の塗料をペイントするのか、ナットの溝の切り方、最終的なセットアップなど、すべてをリストアップしたら何千もの項目が上がることでしょう。ギター製作は生涯学習と呼べるものです。

独自開発のブリッジ

 Chesapeakeシリーズのブリッジは、Severnタイプのトレモロ、ハードテイルともに100%ユニークな設計となっています。ブリッジはサウンドをボディの中心部に伝える役割を担っており、トレモロ・ブリッジはナイフエッジ構造ではなく蝶番のような構造をしているため、ブリッジ・ユニットは安定した状態でボディに固定されています。これはスワンプ・アッシュやキルトの出たメイプル・トップでも高い安定性を生み出すことにつ ながります。一方、Influenceシリーズのブリッジは弦の固定部とブリッジを融合させていて、かなりユニークなものとなっています。ブリッジとテイルピース間で発生する弦振動によるサウンドや倍音を、メインの弦振動に融合させているのです。この設計によりサウンドをさらにボディの中心に集め、サステインと明瞭さを作り出しています。

ネック・シェイプのこだわり

 ChesapeakeとInfluenceのネックはともに多くの人が愛して止まない昔のクラシックなネック・シェイプを再現しています。両シリーズのボディ・シェイプとインレイはともにオリジナル・デザインとなっています。ブリッジのデザインが私たちのギターにユニークさをもたらしていると思いますが、ネックの仕込み角、ネックの作り方、ボディ・サイズといったさまざまな要素が我々の楽器にサウンドやフィーリングをもたらしているのです。また、私はセットネックの安定感が大好きです。これはKnaggsのChoptankやSevernのサウンドの特徴を作るひとつの要素と考えています。

Knaggs Guitarsのユーザーへ

 トラディショナルなスタイルを好むプレイヤーだけでなく、Knaggs Guitarの持つサウンド・クオリティを理解し、実験するための耳や知識を持った人たちにもぜひプレイしてもらいたいです。複雑に絡み合うハーモニクスや長いサステインによって、私たちのギターは少し異なったサウンドを持っていると個人的に考えています。おそらく多くの人たちにとってこのサウンドに馴染みはなく、今までの考え方を少し変えることになるかもしれません。ダグ・ラッパポート、スティーヴ・スティーヴンス、ミック・ヘイズ、ニルス・ロフグレン、そしてその他多数のギタリストたちがそのユニークさを理解し始めてくれています。Knaggs Guitarsの機能を高いレベルに持っていってくれるアーティストに出会いたい。違いは小さなものかもしれませんが、グレイトなミュージシャンならそれを聴き分けられることでしょうし、そのニュアンスを自分のものとしてくれることでしょう。

 

Knaggs Guitars Staff Interview 〜主要スタッフが語るナッグス・ギターズ

 連載の第1回でジョー・ナッグス本人のインタビューを掲載したが、今回はその他の主要スタッフ3人に話を聞いた。いずれもPRS出身という熟練のギター製作家ばかりだ。

Danny Dedo(ダニー・デド)〜CNCプログラミングのスペシャリスト

──これまでの職歴を教えて下さい。
 Knaggs Guitarsに加入する以前、PRSのR&D部門とプライベート・ストック部門に21年間勤務しました。ジョーとポールと一緒に、プロトタイプや新製品の製作に従事していたのです。私はCNCプログラミングやその他のエンジニアリング作業と並行し、展示会などに用意するショー・モデルやアーティストに提供するギターの責任者でもありました。PRSを離れて以降も、Knaggs Guitarsで技術を磨き続けていますよ。

──PRSとKnaggs Guitarsの一番の違いは?
 何よりもサウンドにつきますね! スケール長、ブリッジ設計、ピックアップ、素材の組み合わせといったさまざまなコンビネーションにより、木材が持つトーンを自在にコントロールしているのです。このトーンとサステインはほかのギターにはない、我々だけの個性だと信じています。

──Knaggs Guitarsにおけるあなたの役割は?
 私のおもな役割は、ジョーのデザインを実際のギター製作に結びつけることです。そこにはCNCプログラミングも含まれ、組み込みや作業プロセスの立案も行ないます。また、ハンド・カーヴィングを手伝うこともありますよ。

──CNCコンピューターのプログラムを組む際に一番注意を払う点は?
 どの楽器でも最も大事にしているのは、CNCカーヴィングでもハンド・カーヴィングとまったく同じフィーリングを作り出すことです。私たちの楽器はすべてハンド・カーヴィングのモデルから始まっていて、プログラムを組む際もオリジナルのルックスとフィーリングを再現できるよう常に注意を払っています。

──ジョー・ナッグスというギター・ビルダーについて思うことは?
 私はジョーと知り合ってから25年間も一緒に仕事をしてきました。彼の芸術的なディテールにはいつも驚かされています。エンドレスに何時間も製図をしている姿を見てきましたし、最終的な設計にたどり着くまで、彼は非常に細かい線を幾重にも描き続けていますよ。

John Ingram(ジョン・イングラム)〜最終セットアップ/経営コンサルタント

──あなたもPRSプライベート・ストック・チームのオリジナル・メンバーですか?
 ポール・リード・スミスとは1980年に仕事をするようになり、ともにギター製作とリペアについて学んできました。85年にPRSは少数のスタッフで設立されましたが、私は投資パートナーとしてビジネス面でも関与していたのです。ご存知のとおり、会社はその後急成長を遂げました。その間、私は組み立てのマネージャー、カスタマー・サービス、リペア・ショップ、アーティスト・リレーション・テクニシャン、製品開発、そしてプライベート・ストック・チームのメンバーとなりました。これらと並行してプライベートでリペア・ビジネスも手掛け、エレクトリックとアコースティック問わず、フレットを持つ楽器なら何でも作るようになりました。そして04年にPRSを離れたのです。

──Knaggs Guitarsにおけるあなたの役割は?
 ジョーからの招待もあり、自分が持つテクニック、組み立てプロセスの豊富な経験と知識を生かすため、Knaggsの一員となりました。会社の操業が始まった2010年以降、すべてのギターの組み立てとセットアップを手がけています。また、私はコンサルタントとしての顔も持ち、楽器設計のうえでの情報提供やビジネス面での相談も受けています。

──PRSでのキャリアは、Knaggs Guitarsにどのように生かされていますか?
 PRSは、最良のものを作るために誰一人努力を惜しみません。非常に高いクオリティを保っており、細部にまでこだわった適切なセットアップが行なわれています。さまざまなメーカーのギターをリペアしてきた経験は、現在の私が持つ独特なスキルへとつながっています。

──最終セットアップで一番心がけていることは?
 非常に多くの要素が関与しているため、ひとつのポイントだけを取り上げることはできません。適切に行なわれているのか、そうでないのか、ちゃんと重点を押さえて作業されているかということです。あえてあげるとすると、各ギターに装着するナットの製作はかなり注意を払っています。

Dean Nitck(ディーン・ニッチ)〜家具職人としての顔を持つ木工担当

──これまでの職歴は?
 PRSに10年ほど勤め、塗装や木工作業を担当してきました。自分でビジネスを始めるまでチーム・マネージャーも務めていました。そのビジネスというのは、アンティーク家具の修復と各時代の家具の復刻品を作ることでした。

──Knaggs Guitarsにおけるあなたの役割は?
 木工所内にてオーダーの整理をし、必要があれば塗装作業を手伝っています。日毎の流通管理についても、ジョーの手助けをしていますね。

──ネックにすべて柾目のものを使用する理由は?
 杢目の素晴らしさを最大限に引き出し、強度と安定性も高められるからです。ネックの反りを防ぎ、補正のためにトラスロッドを締める機会も減らせます。

──ネックをハンド・カーヴィングする際に心がけていることは?
 ヘッドストックにかけて違和感のない均一な形状、そして快適なフィーリングを生むことですね。特にSevernモデルは、すべてハンド・カーヴィングで仕上げたネックをボディに組み込んでおり、引っ掛かりのないシームレスな感触を実現しています。

──ギター作りと家具作りに共通点はありますか?
 製作工程のほとんどと、手作業の際に扱う工具は同じです。また、木工作業のテクニックも非常に似通っています。ただし、ギター製作時にはビジュアル面を重視しながら木工作業を進めるのは当然ですが、サウンド面も忘れてはならないのが大きな特徴です。

Knaggs Guitarsリペア担当〜志村昭三ギター・テックの証言

 Knaggs Guitarsを見て最初に思ったのは材料の素晴らしさ。厳選されたトップ材も良いですが、特に目を見張ったのがネックです。これには驚きました。普通ペグを付け直す時などに、リーマーで穴を広げなければいけないのですが、ネック材自体がものすごく硬かったんですよ。僕も何万本とギターは見てきましたけど、例えば60年代のギブソンのマホガニーも硬くてすごく良いんですね。目が詰まっていて。マーティンなどにも言えますが、当時はそれだけ材が豊富にあって選ぶことができたんです。なぜ硬いと良いかというと、弦の張力に負けないから。弦がネックを引っ張ってロッドで相殺するというわけではなく、ネックだけで静止状態を作れる。その状態のほうが音もよく、デッド・ポイントもなくなる。サステインも良いし、立ち上がりも良くなるんです。ということは、角材の時点でものすごく厳選されたものがネック材に使われているということなんです。あれだけ硬いということは、たぶん乾燥にしっかり時間をかけているんでしょうね。今(剛)もGHSのPROGRESSIVESという硬い弦を張っていてかなりテンションが強いんですけど、このネックならそれにも十分耐えられますからね。

 あと、リフレットをやってわかったことなんですが、溝とフレットの足に若干接着剤が残ってたんです。僕がリフレットする時も全部接着剤を入れてるんですが、なぜそれをするかと言うと、溝とフレットの足にできる空洞をなくすことで振動がよく伝わるようになるんです。サステインが良くなる。加えてフレットの浮き予防が徹底されている。全国各地でツアーをやるようなギタリストの楽器は、どうしても気候の変化で木材が動いちゃうんですよ。札幌でライブをやって翌日は名古屋、次は暖かい沖縄といったスケジュールではそれも当然ですからね。それから、ジョーさんは材の配合に関してもよく研究していると思います。ネックがすごく強くて、トップ材もカーリー・メイプルの硬いやつで、バックのアルダーやマホガニーはわりとパサパサしたものを使ってたんです。Choptankなどは面積が広いんで、バック材を重くしてしまうとまた違うサウンドになるはずなんですよ。その材の配合もすごく良いと思いますね。

Shimura's Profile: 1954年、山梨県甲府市出身。19歳で上京し、プレイヤーとしてトランザムなど多くのセッションに参加。26歳頃、本格的にリペアマンとしての仕事を開始する。初代ダンカン・ギターのプロデュース、音楽専門学校のギター・クラフト科講師も務め、並行して今剛、松原正樹など、日本のトップ・セッション・ギタリストのギター・テクニシャンとしても活躍している。

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