- デジマート・マガジン
- 特集
- Knaggs Guitars特集:今剛がナッグス・ギターズの人気6機種を試奏レポート!
今剛がナッグス・ギターズの人気6機種を試奏レポート!
伝統と革新を持ち合わせる気鋭のギター・ブランド=ナッグス・ギターズとは?
アメリカの首都ワシントンDCからチェサピーク湾を挟んだすぐ東側、メリーランド州グリーンズボロに拠点を構えるナッグス・ギターズは、2009年創立とまだまだ年若いブランドだ。ただ、それはあくまでもブランドの話で、創立者にしてデザインと製作を取り仕切るジョー・ナッグスはポール・リード・スミスの片腕として20年以上PRSギターズに在籍し、同社の最高峰であるプライベート・ストックの責任者も務めた人物。共同創立者のピーター・ウルフも元PRSのマーケティング責任者であり、ふたりのPRSでの同僚など数十年のキャリアを持つクラフトマンたちが集ったのがナッグス・ギターズの実態である。
先住民族が名付けた近隣や北米の河川名からシリーズ名やモデル名を取り、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターが2シリーズずつ、加えてベースの製作も行なうなど、新興ブランドとしては豊富なラインナップをそろえている。主軸となるエレキ・シリーズは2タイプのオリジナル・ブリッジでシリーズ分けされているが、小規模のギター工房には珍しく、金属パーツまでデザイン/製作しているのだ。同社のギター製作理念や姿勢が端的に表われている部分と言えよう。また、木製ピックガードも含めたさまざまな木材のラミネイトによるトーン設計とデザインなども大きな特徴で、すべてのエレキ・モデルはセットネック・ジョイントを採用しているのも同社の個性。さらに、各モデルごとにTier1〜Tier3までのグレードが存在し、T1には最高級グレードの材やインレイを用いる一方、T3はプレイヤーに向けた実践的仕様となっており、比較的低価格での設計を実現している。
現在のギター・シーンで高い評価を受けているPRSギターズの、さらに最高峰ラインを手がけていたルシアーたちによる新たな挑戦。今後も多数の革新的なギターを生み出していくことだろう。
今剛試奏レポート!Chesapeake Series : Severn & Choptank
それでは早速、今剛による試奏レポートをお届けしよう。まずはKnaggs Guitarsの人気機種、ChesapeakeシリーズのSevern Tier 1とTier 2、そしてChoptankの試奏動画をご覧いただこう。
Chesapeake Series : Severn Tier 1
チェサピーク湾に注ぐ河川から名前を取ったセヴァーンは、25.5インチ・スケール、おもにシングルコイル・ピックアップを採用など、フェンダー・ストラトキャスターを基盤にしたモデル。ティア1と2はスワンプ・アッシュやアルダーにカーリー・メイプル・トップを組み合わせたラミネイト・ボディで、さらにマホガニーの一種であるサペリを化粧板として配しているのが特徴だ(ティア3はスワンプ・アッシュもしくはアルダー単体)。またセットネック・ジョイントの採用も注目のポイントだろう。ピックアップは、ティア1にはビンテージ指向にパワーを足したリンディ・フレーリンのブルース・スペシャルを、ティア2と3にはアルニコ2マグネットを用いたセイモア・ダンカンのAPS-1を採用している。さらに注目なのがオリジナル・ブリッジで、トレモロ・タイプはリア・ピックアップ部のプレートとブリッジ本体が2点でジョイントされており、そこを起点にブリッジが上下する構造となっている。ユニークなシステムだが、プレートがボディ振動を効率的に伝えることで豊かなサステインを生み出すとともに、音の立ち上がりなど反応の良さも向上させているわけだ。“61”とタイプ分けされたネック・グリップは、ジョー所有の61年製ストラトを参考にしたもので、約215Rというフラット目な指板アール、細く高さのあるフレットの採用などもあり、フィンガリングも良好だ。
Chesapeake Series : Severn Tier 2
セヴァーンのTier2はアルダー・バック&メイプル・トップに加え、マホガニーの一種であるサペリを薄く貼ってある(メイプル・トップ・モデルもあり)。ジョーによると、サペリはメイプルのような硬質な音響特性を持ち、独特な杢目を描くことから、大胆にもフレイム・トップの化粧板に採用したという。木製のピックガードはウェンジ材を用いたもので、独特の細かい縞模様が3層ボディともうまく調和している。Tier1では、この部分に白蝶貝を埋め込むことで、さらなる高級感を演出している。
Chesapeake Series : Choptank Tier 2
チョップタンクは、セヴァーン同様にチェサピーク湾に注ぐ河川から名前を取り、25.5インチ・スケールを採用したシングル・カッタウェイ・モデル。ストラト的なセヴァーンに対しテレキャスター的な位置付けのモデルと言えるが、セットネック・ジョイントで、シングルコイル・ピックアップを3基搭載している点がおもしろい。ピックアップはセヴァーンと同じく、ティア1がリンディ・フレーリンのブルース・スペシャルで、ティア2と3はセイモア・ダンカンのAPS-1。セレクターは5ウェイなので、リア&センターやセンター&フロントといったハーフトーンも活用できる。ボディは、ティア1と2がメイプル・トップを配したラミネイト構成で、ティア3が単材。テレキャスター・シェイプではあるが、トップのエルボー部やバックにコンター加工がなされており、体へのフィット感を向上させているのも実用的なアイディアだ。本器も約215Rの指板アールやトール&シン・フレットを採用しているが、ネックのグリップは52年製テレキャスターをもとにした“52”タイプ。セヴァーンよりやや厚みがあり、ガッシリと握り込みやすい形状を持っている。ブリッジはナッグス・オリジナルで、ノン・トレモロ・タイプのためリア・ピックアップを囲むプレートとブリッジ本体は一体型。弦の裏通しとも相まって、ボディ部での弦振動がしっかり還元されたサウンドを持つギターだ。
今剛's review:重さやバランスも良いし、このまま仕事に行けちゃう感じですね。
今:セヴァーンのティア1はとにかく弾きやすいね。特に、このココボロっていう指板がすごく良い。初めてのギターは“馴染み”をチェックするんですけど、これはすごく馴染みますね。初めて弾いた感じがしない。サウンドは、メイプル・トップならではのアタックがあるし、低音も高音もしっかり出ている。アルペジオなんかを弾くと高音がすごくキレイですよ。ギターとしてはモダンな感じで、僕はビンテージにはあまり興味がないからこういうギターは好きです。この独特のアームも使いやすいですよ。重さやバランスも良いし、このまま仕事に行けちゃう感じですね。ティア2はティア1に比べると少し重いかな。でも、これも指板がすごく良いしフレットもキレイに仕上げてありますね。ピックアップがセイモア・ダンカンだからサウンドはティア1とは違うけど、こっちも良いですよ。シングルコイルでもパワーに不足を感じないです。
チョップタンクは一番気に入りました。セヴァーンより太めのネックだけど違和感はないし、とにかく反応が良い。これも指板がすごく手に馴染むね。リアはテレキャスターっぽい音がするし、リアとセンターのハーフトーンは今までに聴いたことがないサウンドですよ。高域が出ているのはもちろん、粒が揃っていて密度が濃い感じがします。いろいろなギターの要素があると思うけど、それを意識しないで弾けるのが良いね。いや、これ本当に良いなあ(笑)。
今剛試奏レポート!Influence Series : Kenai & Keya
続いては、ブリッジとテイルピースが一体化したオリジナル・パーツを採用しているInfluence Seriesの代表機種、KenaiとKeyaを紹介しよう。
Influence Series : Kenai Tier 2
ナッグス・ギターズの二本柱として、チェサピーク・シリーズと対をなすのがこのインフルエンス・シリーズ。アラスカの地名から名前を取られたケナイは、そのシングル・カッタウェイ・モデルだ。インフルエンス・シリーズの大きな特徴は、チェサピーク・シリーズより若干短い24.75インチ・スケール(通称ギブソン・スケール)を採用していることで、ボディ構造もレス・ポールにならい、マホガニー・バック&メイプル・トップという組み合わせになっている。そのバック材は8/4インチ(約5.08cm)と厚めだが、バックにコンターが加えられているうえ凹型の湾曲も付けられているので、思いのほか軽く、フィット感も良好。それらを踏まえてトップ材との比率を考えている、ナッグスならではの技と言えるだろう。ネック・グリップは、ビンテージ・ギターを元にした“59”タイプで、厚みのあるシェイプ。ピックアップもオリジナルP.A.F.を再現したセイモア・ダンカンのセス・ラヴァー・モデルSH-55n/SH-55bを搭載し、古き良き時代のエレクトリック・ギターの構造を敬する姿勢がうかがえる。シリーズ名にもなっているオリジナル・ブリッジの採用は革新性の発露で、チューンOマティック・ブリッジとテイルピースを一体化させたこのブリッジにより、豊かな倍音とサステインを実現しているのが、単なるビンテージ指向モデルと大きく異なる点だ。
Influence Series : Keya Tier 2
インフルエンス・シリーズのもう1本、北米を流れる河から名前を取られたケヤは、ダブル・カッタウェイということもありジョー・ナッグスたちの古巣PRSを思わせるモデルだ。スケールとボディ構造はケナイと同じく、24.75インチで、マホガニー・バック&メイプル・トップ。ただ本器のバック厚は6/4インチ(約3.81cm)となっており、ケナイと比較してメイプルが主張する、タイトできらびやかなトーン設計と言えるだろう。また、見た目とフィット感双方に関わる、ボディ・トップの深いアーチと断面で立ち上がる美しいエッジ処理にも注目したい。ネック・グリップはナット部が約4.2cmの“85”タイプで、ケナイより薄くスリムなシェイプを採用。24フレットということもあり、より現代的なプレイ・スタイルを念頭に置いたモデルと言えるだろう。ピックアップは、ケナイと同じくTier2ということでセイモア・ダンカンのセス・ラヴァー・モデルSH-55n/SH-55bだが、本器は1ボリューム&1トーンというコントロールになっており、PRSと同じくヘヴィロック・ギタリストにも好まれそうなスタイルだ。ブリッジは、シリーズ名通りチューンOマティック・ブリッジとテイルピースが一体化したオリジナル・モデルを採用。倍音とサステインをロスなく再現するためのこだわりだが、すべてのモデルでセットネック・ジョイントを採用しているのと同じく、同社の哲学を体現しているポイントだ。
今剛's review:シングル・カッタウェイならではのボディやネックの鳴りが好きなのかな。
今:ケナイは2ボリューム、2トーンでまさにレス・ポールだけど、これはいいね! パッと見からするとすごくオーソドックスなはずなのに、弾き心地はすごくモダンな印象です。軽いのもうれしいし、このウェーバリー・タイプのオープン・バック・ペグも良い感じですよ。個人的にはケヤよりもしっくりきたけど、シングル・カッタウェイならではのボディやネックの鳴りが好きなのかな。音はすごくスムーズで、このブリッジならではの響きがあるのかもしれない。コイル・タップがあると欲しい音が全部出るっていう感じなんだけど、シャープさもあるし十分と言えば十分かな。今のところVol.1のチョップタンクに続くお気に入りです(笑)。
ケヤは随分軽いんだね。でも生音の状態でもすごく振動が伝わってくる。ギブソン・スケールなので確かにフレット間は狭めだし、弦間も少し狭く感じるけど、弾きやすくてそんなこと気にならないです。指板もフラットでグリップも細めだから握りやすいんだよね。こういうタイプのギターは使ったことないんだけど、ハイ・ポジションも弾きやすいし良いギターだと思います。個人的にリクエストするなら、ケナイと同じでやっぱりコイル・タップができたらいいかな。パワーは申し分なしだけど、もう一音色欲しい時もあるからね。
チェサピーク・シリーズとは全然違う印象で見方がずいぶん変わったけど、弾きやすいっていうのは変わりないね。
今剛試奏レポート!Influence Series : Sheyenne & Chena
最後は、セミアコ構造を持つSheyenneとフルアコ構造のChenaの2機種にスポットを当ててみよう。今剛による試奏動画&レポートを大いに参考にしてもらいたい。
Influence Series : Sheyenne Tier 2
前2回に渡って紹介したエレクトリック・ソリッドのほか、Knaggs Guitarsではアコースティック・ギターや今回紹介する箱ものギターも手がけている。北米を流れる河川からその名を取ったSheyenneは、一体型ブリッジ&テイルピースを採用したインフルエンス・シリーズの1本で、中空構造のボディを持ったセミアコ・タイプだ。マホガニーのセンター部をカーリー・メイプルのトップ&バックで挟んだ構造だが、杢目の鮮やかさ、ウィンター・ソルスティスと名付けられた淡い色味、メイプルを塗り分けした疑似バインディングなどに同ブランドの美学が表われている。また、セミアコ構造ではあるが、センター・ブロックがボディ・エンドまで延長されておらず、よりトップ板の振動を生かしたデザインとなっているのは、常に新しいアイディアを盛り込む同ブランドらしい試みと言えるだろう。トップ&バックの滑らかな曲面からも、Knaggs Guitarsの繊細かつ丁寧な仕事ぶりがよくわかる。ネック・スケールはKeyaやKenaiと同じく24.75インチ。“63”とタイプ分けされたネック・グリップは、幅はKenaiと同サイズながらやや薄めの握りとなっている。エボニーの化粧板を張られたヘッド部に搭載されるペグは、ゴトー製のウェバリー型オープン・バック・タイプを採用。実用性を保ちつつ、全体の印象を損なわない配慮が見て取れる。
Influence Series : Chena Tier 2
アラスカを流れる河川から名前を取ったChenaも、インフルエンス・シリーズに属すホロウ・ボディ・モデル。シングル・カッタウェイ、“59”タイプのネック・グリップと、Kenaiとの類似性を見ることもできる1本だが、サイズ以上のフルアコ感を実現するアイディアが盛り込まれている。
そのひとつがボディ部の加工で、バックのマホガニーはブリッジ搭載部分の1ブロックを残して内部をラウンド状に削り、同じくラウンド加工されたトップと最小限の接点で接合するような構造。またそのマホガニー自体も、Kenaiが8/4インチ(約5.08mm)厚だったのに対し、10/4インチ(約6.35mm)厚のものを採用して中域を確保している。バック面には大胆なコンターも入っており、フルアコ的なふくよかなトーンをソリッドの取り回しの良さで活用できる1本と言えるだろう。ネック・スケールはシリーズの他モデルと同じく24.75インチ。前述した“59”タイプ・グリップは、やや厚みのある握りながらナット幅は約4.28mmで、12インチ(約305mm)というフラット目の指板Rもあって、ギブソン・タイプを好むユーザーにとっても違和感なく扱えるだろう。目を引くグリーンのフィニッシュ、黒/白/黒のセルにメイプルを合わせたボディ・バインディング、ゴトー製のウェバリー型オープン・バック・ペグなど、見た目にも主張するモデルだ。
今剛's review:新品だけどよく鳴っているね。サンタナを弾きたくなる気分です(笑)。
今:Sheyenneはまず音が太いね。ギブソンのES-335に比べるとカッタウェイ部分とかは厚みがあるんだけど、これもやっぱり軽い。ボディは大きく見えるかもしれないけど、トップのアーチもきれいに仕上げられているし、体への馴染みは良いですよ。それと、ギブソン・スケールにしてはピッチがすごく良い。普通このスケールだとどこかズレちゃうんだけど、これは全然問題ないですね。よく響くし、しっかり作られていますよ。指板も手に馴染む。これはフレットの選択と処理が良いんだろうね。曲のイメージや雰囲気によってはセミアコを使うこともあるんですけど、これはBattle Cryや福山雅治くんのサポートでも合う曲がありそうです。
Chenaも新品だけどよく鳴っているね。サンタナを弾きたくなる気分です(笑)。特に気に入ったのはセンター・ポジションの音で、空気感もコシもあってすごく不思議なサウンドがします。全体的な音は優しい感じなんだけど、音も太いし体にも響くから、ロックな感じで弾いても気持ちよいです。それと、これも軽いし全体のバランスもいいから抱えた時のストレスがないですね。何か、ビンテージのギブソン・ギターのような力強さを感じます。
【総評】一番のお気に入りはChoptankですね。これは本当に仕事で使ってみたくなりました。
今:総評としては、どのモデルもとにかく弾きやすい。特に指板が良くて、左手がスムーズに動かせますね。ココボロ指板はかなり気に入りましたよ。それから、それぞれ音の個性は違うけど、どれも伸びやかでサステインも十分ですね。ただ、弾きやすさや音の伸びはモダンな方向性のギターなんだけど、音の鳴り方なんかに力強いフェンダーやギブソン、つまりビンテージ・ギターのフィーリングを感じました。倍音もしっかり出ていて、それが音の太さにもつながっていると思います。今回はフラクタル・オーディオのAxe-Fxで試奏しましたけど、エフェクターの乗りなんかも良かったですね。見た目的には、杢目もきれいだし好きなデザインですね。ただそれ以上にどれも軽い。どうやったらこんなに軽くできるんだろう。50〜60年代の良い楽器って意外と軽いんですけど、ナッグスのギターもパッと持った時にその感触がありました。いろいろ試奏してみて、一番のお気に入りはチェサピーク・シリーズのChoptankですね。これは本当に仕事で使ってみたくなりました。
Profile
今剛(こん・つよし)
1958年、北海道出身。日本を代表するスタジオ・ミュージシャン。寺尾聰の「ルビーの指環」から宇多田ヒカルの「Automatic」まで、ヒット曲にこの人ありと言われるほど、数多くのアーティストのレコーディング、ライブに参加。現在は、同郷で中学の後輩であるkoがボーカルを務めるBattle Cry及びclass with Battle Cryのギタリストとしても活動している。
なお、今回の試奏では、フラクタル・オーディオ・システムのAxe-Fx IIプリアンプ、Amcronのパワー・アンプPSA-2、メサ・ブギーのスピーカー・キャビネットで組まれたサウンド・システムを使用した。
◎Battle Cry Sound